なぜ、日本文の前編集が必要か
コンピュータで翻訳(日本語→英語)するときは、「前編集」の作業が必須です。では、なぜ前編集が必要なのでしょうか。
それは、「コンピュータは機械的に翻訳する」だけだからです。原文の日本語以上の英語を生成できないのです。つまり、日本語がわかりにくかったら、わかりにくい英語として翻訳されてしまうのです。
コンピュータは人間と違って、行間を読んだり、文章の前後関係を考慮しません。翻訳対象となる原文だけを見て解析します。したがって、翻訳結果の善し悪しは、すべて原文の日本語によって決定されます。そこで、前編集が重要になってくるのです。
この章では、日本語の特性や英語との違いを考え、前編集するうえで必要になる知識について説明します。
日本語の特性
日本語の大きな特徴は「あいまい性」、「婉曲表現」にあります。Aにもとれる、Bにもとれるといった、どっちつかずの表現や、目的をあえて明確にしない間接的な言い方にこの特徴が表れています。
よく政治家が使う「遺憾に思う」や「善処する」というのは、いったいどういう意味を含んでいるのでしょうか。本当にこういった言葉は通訳・翻訳泣かせです。
【例】 遺憾に思う
(1) 期待に応じられなくてたいへん申し訳なく思う
(2) 強く反対する
(3) とりあえず反対を唱えておく
【答え】 場合によって、(1)、(2)、(3)になります。
【例】 善処する
(1) 早速対策を立てて、うまく処理する
(2) とりあえず処理する
(3) ホントはやる気がない、逃げ口上
【答え】 本来は(1)の意味ですが、多分(2)や(3)でしょう。
「A社の業績は、現在下降傾向にあると言われている」といった表現もよく使われます。この表現は、「A社の業績は、下降している」と同じ意味です。しかし、「傾向」という婉曲表現と、「と言われている」という間接表現によって断言を避けた文章になっています。
これらのあいまい性、婉曲表現、間接表現は、ときには文章を柔らかくするオブラートの役目を果たすこともあります。露骨な言葉を好まない日本人の文化からきた表現方法でしょう。
しかし、翻訳をするときは、これらの表現が障壁になります。英語は、日本語と違って「Yes」、「No」のはっきりした言語です。したがって、翻訳された英語も明確に意味をつかめる文章でなくてはなりません。そのためには、原文になる日本語の意味をはっきりさせる必要があるのです。
原文をはっきりさせるということは、原文の意味を正確に把握し、理解するということです。人間が理解できない文章をコンピュータに翻訳させても、よい翻訳結果を出すはずがありません。
「日本語と英語の違い」とは
日本語と英語の間には、異なる文化による「発想の違い」が存在します。これが言語表現に大きく関係し、翻訳をするときの障害になります。
この2つの言語間に横たわる違いを理解しないと、「とりあえず英語になっていて、なんとなく意味はわかるが、英語的表現ではない」といった程度の翻訳結果しか出てきません。
次の表は、「日本語と英語の違い」を簡単にまとめたものです。
日 本 語 | 英 語 |
あいまいで明言を避ける表現 | 直接的で具体的な表現 |
省略語(主語などの省略)が多い | 省略語は少なく、係り受けが明確 |
文が長くなりがち | 比較的簡潔 |
無生物は主語になりにくい | 無生物でも主語になる |
結論(話題の中心)が最後 | 結論(話題の中心)が最初 |
難解な文章の場合、読み手の能力が問われる | 難解な文章の場合、書き手の能力が問われる |
日本語を書くときに、このような点を注意するだけで、正確で英語らしい表現にすることができます。ここでは次のポイントを覚えておいてください。
【ポイント】
- 無生物も主語にする
- 結論(話題の中心)を最初にもってくる
例 題
【原文】
翻訳文 | そのホテルでは500人の客が宿泊できる。 |
翻訳結果 | 500 visitors can stay in the hotel. |
【前編集】 無生物を主語にする
翻訳文 | そのホテルは500人の客を収容できる。 |
翻訳結果 | The hotel can accommodate 500 visitors. |
実践問題
無生物を主語に書き換えてみましょう。
翻訳文 | (1) 努力の結果、彼は成功した。 |
(2) このレポートには、以下の内容が記載されています。 |
前編集済み日本文(標準)
翻訳文 | (1) 彼の努力が彼を成功に導いた。 |
(2) このレポートは以下の内容を記載しています。 | |
翻訳結果 (参考) |
(1) His effort led him to the success. |
(2) This report mentions the following contents. |