AI翻訳の進化により、翻訳業務の効率化はこれまで以上に進んでいます。従来のAI翻訳は、あらかじめ学習したデータやルールに基づいて翻訳を行うのに対し、生成AI翻訳はその場で文脈を推測しながら翻訳できる点が特徴です。
本記事では、両者の仕組みや違いをわかりやすく解説し、業務効率化に役立つおすすめの翻訳ツールも紹介します。
人工知能を用いる翻訳技術「AI翻訳(NMT)」
一般に「AI翻訳」と呼ばれることが多い「ニューラル機械翻訳(NMT)」は、人工知能を活用し、ニューラルネットワークとディープラーニングを応用した翻訳技術です。「ルールベース機械翻訳(RBMT)」や「統計的機械翻訳(SMT)」と並ぶ主要な機械翻訳方式のひとつです。
ニューラル機械翻訳(NMT)は人間の脳神経の働きをモデルにしており、自律的に学習を重ねることで翻訳精度を向上させる点が大きな特徴です。近年ではその精度が飛躍的に高まり、Google翻訳やDeepL翻訳など多くの翻訳サービスに採用されています。また、ルールベース機械翻訳(RBMT)や統計的機械翻訳(SMT)と組み合わせて使われるケースも見られます。
ニューラル機械翻訳(NMT)は膨大な学習データを取り込むことで、自然で高精度かつ高速な翻訳を実現し、短時間で大量のテキスト翻訳が可能です。ただし、高精度を維持するために大量の学習データが必要なこと、システム構造が複雑なため不具合発生時の原因究明や対応が難しいといった課題も存在します。それでもなお、AI翻訳技術は年々進化を続け、実用性が着実に高まっています。
【参考】自動翻訳との違い
自動翻訳とは、翻訳作業の反復的なプロセスを自動化する仕組みを指し、AI翻訳と同義で使われることもあります。ただし、自動翻訳は翻訳そのものだけでなく、ファイルの前後処理や他システムとの連携など、翻訳業務全体のワークフロー自動化を指す場合が多い点が特徴です。
特に日本では、音声のリアルタイム翻訳を指す文脈で使われることが多く、「音声認識」「機械翻訳」「音声合成」といったプロセスを組み合わせたシステムを意味します。具体的には、音声を文字に変換する「音声認識」、その文字を翻訳する「機械翻訳」、さらに翻訳結果を音声で出力する「音声合成」によって自動音声翻訳が実現します。
従来の機械翻訳(RBMT・SMT)の仕組みと特徴
ニューラル機械翻訳(NMT)が普及する以前は、主に「ルールベース機械翻訳(RBMT)」と「統計的機械翻訳(SMT)」が活用されていました。それぞれの仕組みと特徴を以下に解説します。
機械的な翻訳を行う「ルールベース機械翻訳(RBMT)」
ルールベース機械翻訳(RBMT)は、文法ルールと辞書データを基に機械的に翻訳を行う方式で、いわゆる直訳タイプの翻訳手法です。1950年代から研究が進められており、最も歴史がある方式でもあります。
ルールベース機械翻訳(RBMT)の強みは、翻訳プロセスが明確で誤訳の原因を特定しやすく、修正もしやすい点です。しかし直訳になりがちなため、表現が堅く不自然になりやすいという弱みもあります。特に口語表現や複雑な文に対応しにくく、辞書データの追加・更新にも多くの手間がかかります。
なお、さまざまな定義がありますが、ルールベース機械翻訳(RBMT)は「機械翻訳」、ニューラル機械翻訳(NMT)は「AI翻訳」と区別されることが多く、現在の主流はニューラル機械翻訳(NMT)ですが、ルールベース機械翻訳(RBMT)は専門的な分野や特定用途において依然有用です。
全体のニュアンスもくみ取る「統計的機械翻訳(SMT)」
統計的機械翻訳(SMT)は、大規模な対訳データ(コーパス)を学習し、原文と訳文の関係性を統計的に捉えて翻訳する方式で、意訳寄りの翻訳が可能です。ルールベース機械翻訳(RBMT)とは異なり、事前に文法ルールや辞書を設定する必要がなく、データから自動的に翻訳知識を獲得する点が特徴です。
そのため、文章全体のニュアンスを捉えた自然な翻訳が可能であり、口語や慣用表現への対応にも優れています。しかし、十分な量と質の対訳データ(コーパス)がなければ精度が低下しやすく、データが偏っている場合は特定の表現が過度に優先されるといった点が課題です。
では、生成AI翻訳とは? 大規模言語モデル(LLM)を活用した新たな可能性
AI翻訳の手法のひとつとして、近年登場した「生成AI翻訳」があります。これは「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれる生成AIを活用した新しい翻訳技術であり、AI翻訳の中でも注目を集めています。代表的な生成AIは、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiです。
そもそも生成AIとは、大量のテキストデータを解析し、人間の言語を理解・生成する人工知能技術です。この技術により、ユーザーの質問に対して、その場で適切な回答を生成することが可能になります。従来のAI翻訳が事前に用意されたデータベースに基づいて翻訳を行うのに対し、生成AI翻訳は対話形式を通じて、より柔軟で自然な応答を提供できる点が特徴です。
また、ユーザーが質問(プロンプト)を調整することで、意図により合致した翻訳結果を得ることも可能です。こうした高い適応力により、生成AI翻訳は従来の翻訳技術にはない精度と柔軟性を実現し、新たな可能性を切り開いています。
「AI翻訳」と「生成AI翻訳」は何が異なる?NMT・LLMの違い
ここからは、従来のAI翻訳であるニューラル機械翻訳を「AI翻訳(NMT)」、新たな翻訳技術である大規模言語モデルを用いたものを「生成AI翻訳(LLM)」として、両者の具体的な違いを解説します。
いずれもニューラルネットワークを基盤としていますが、翻訳方法や精度、適した活用シーンには違いがあるため、用途に応じた使い分けが重要です。
1.翻訳の精度と専門用語対応
AI翻訳(NMT)は高い翻訳精度を誇り、特に専門用語の正確な訳出に優れており、分野特化型の翻訳にも活用されています。一方、生成AI翻訳(LLM)はあらゆる質問に対して回答を生成する設計上、場合によっては事実と異なる情報を出力することがあります。したがって、専門性と正確性が求められる翻訳の分野では、AI翻訳(NMT)が優位です。
ただし、近年では生成AI翻訳(LLM)がAI翻訳(NMT)を上回る品質を達成したケースもあり、AI翻訳(NMT)に生成AI翻訳(LLM)の手法を組み合わせる取り組みも進んでいます。将来的には、両者の特徴を融合させた、より高精度かつ自然な翻訳技術の実現が期待されています。
2.文脈やニュアンスの理解力
AI翻訳(NMT)は同じ原文に対して一貫した訳文を提供できます。それに対して生成AI翻訳(LLM)は、文章全体の文脈を把握し、ニュアンスを反映した自然な訳文を生成できます。また、生成AI翻訳(LLM)はプロンプトの工夫により、ユーザーの意図に合わせた翻訳結果を導き出すことが可能です。
3.導入・運用にかかるコスト
AI翻訳(NMT)をはじめとする機械翻訳は、特定分野に特化した翻訳エンジンを比較的低コストで構築でき、運用も効率的です。大量のテキストを高速で処理できるため、日常的に多くの翻訳を必要とする企業や組織に適しています。
一方、生成AI翻訳(LLM)はその高度な性能に伴い、構築・運用コストが高く、特に大量翻訳では処理速度が遅くなることがあります。このため、日常的に大量翻訳を行う用途では、AI翻訳(NMT)の方が有効です。
4.活用できる業務領域
AI翻訳(NMT)と生成AI翻訳(LLM)は、それぞれ異なる業務領域で強みを発揮します。AI翻訳(NMT)は、ユーザーの語学力に左右されることなく、業務上必要な精度の翻訳を迅速に提供できるため、業務効率化を図り、グローバル市場での競争力向上に貢献します。多言語文書の処理やコミュニケーションの自動化に最適です。
一方、生成AI翻訳(LLM)はコンテンツ生成能力に優れ、外国語の問い合わせ対応の自動化や、会議の議事録作成など、従来の翻訳システムでは実現できなかった新たな業務プロセスを構築可能です。活用の仕方次第で、企業の業務改善やサービス品質の向上に大きく寄与することが期待されます。
高精度な翻訳技術はつまりどれ?自社に合った使い分け方
高精度な翻訳技術を選択する際には、従来の機械翻訳からAI翻訳(NMT)、生成AI翻訳(LLM)まで、用途や目的に応じて適切に使い分けることが重要です。翻訳技術は単純に優劣を比較できるものではなく、使用環境や翻訳内容に応じた最適な手法を選択することで、より高い精度が期待できます。
例えば、AI翻訳(NMT)は文の流暢さや自然さに優れており、大量の一般的なテキストの翻訳に最適です。一方、ルールベース機械翻訳(RBMT)は固有名詞や数字、技術文書など、正確さが求められる分野で強みを発揮します。
また、機械翻訳と人間翻訳者を併用することで、翻訳精度を一層高めることが可能です。機械翻訳だけでは対応しきれないニュアンスや誤訳を、人間によるチェック・修正で補完すれば、より信頼性の高い結果が得られます。
さらに、翻訳精度を最大限に高めるためには、原文を簡潔かつ明確にし、あいまいな表現を避けることも大切です。これにより、誤訳リスクを抑え、スムーズな翻訳が可能になります。
失敗しない翻訳ツールの選び方!押さえたい10項目&おすすめ製品
精度の高い翻訳を実現!ビジネスにおすすめのAI翻訳ツール3選
ビジネスの現場では、正確かつ効率的な翻訳が求められます。特に、ルールベース機械翻訳(RBMT)とAI翻訳(NMT)を組み合わせたハイブリッド型の翻訳技術は、自然さと正確さの両方を兼ね備えた翻訳が実現可能です。ここでは、ビジネスシーンで特におすすめのAI翻訳ツールを3つ厳選して紹介します。
自組織だけのセキュアな翻訳環境を構築「WEB-Transer@Enterprise(AI)」
「WEB-Transer@Enterprise(AI)」は、企業・官公庁向けオンプレミス型のAI翻訳システムで、高精度かつ安全な翻訳環境を提供します。搭載する当社開発のAI翻訳エンジン(英語・中国語・韓国語)によって、業界トップクラスの翻訳を利用できます。
「WEB-Transer@Enterprise(AI)」の大きな特徴は、自組織専用に翻訳エンジンをカスタマイズ可能な点です(別途オプション)。長年蓄積してきた翻訳資産や組織内の独自用語、専門用語を反映させる「カスタム学習」により、独自の高精度な翻訳環境を構築できます。
オンプレミス環境での運用で外部との通信を一切行わないため、機密情報の翻訳も安心して行え、外部からのサイバー攻撃やデータ漏洩といったリスクを最小限に抑えます。Active Directoryによるシングルサインオンにも対応し、利便性と安全性を両立しています。
また、無制限ライセンスのため、利用人数や翻訳量に制限がなく、追加費用を気にせず利用可能です。組織内イントラネットを介して、組織内の全員が同じ高精度な翻訳環境を利用でき、業務効率を大幅に向上させます。
加えて、「Officeアドイン機能」により、MS-Officeアプリ上でファイルの翻訳が可能です。業務で頻繁に発生する翻訳作業をスムーズにし、組織のグローバル展開を強力にサポートします。
あらゆるシステムの多言語化をサポート「WEB-Transer@SDK(AI)」
「WEB-Transer@SDK(AI)」は、企業・官公庁向けAI翻訳APIです。翻訳APIの組み込みにより企業サイトやECサイト、アプリ等の多言語化に幅広く対応し、導入組織のグローバル展開を強力に支援します。
「WEB-Transer@SDK(AI)」は、Java、PHP、Python、Rubyなど様々なプログラミング言語に対応し、翻訳API(REST・SOAP)を通じて、TXT、HTML、XML、JSONなど様々な形式を翻訳することが可能です。したがって、様々なシステムやサービスの多言語化が実現可能です。
また、企業ごとの専門用語や翻訳表現に最適化した「カスタム学習」を活用して、オリジナルの翻訳モデルを構築できます。これにより、各企業のニーズに応じた翻訳精度の向上が実現し、より高品質な翻訳結果を提供可能です。
SaaSで導入の場合、安全なデータセンターで運用している翻訳サーバーと、httpsで通信して翻訳を行います。オンプレミスで導入の場合、自組織ネットワーク内に設置した翻訳サーバーで翻訳処理を完結できます。
Webサイトの多言語対応を手軽に実現「WEB-Transer@ホームページ AI」
「WEB-Transer@ホームページ AI」は、高精度なAI翻訳技術を活用し、簡単にウェブサイトの多言語対応を実現できるツールです。既存の日本語サイトに翻訳機能を追加するだけで、デザインやページ構成を変更することなく、ページ内のテキストを瞬時に翻訳できます。日本語サイトを更新するだけで、多言語サイトの内容も自動で反映されるため、効率的に運用できます。
料金体系は、定額制のドメイン単位での契約となっており、翻訳するページ数や文字数に関係なくコストが一定です。特に、更新頻度が高いサイトやページ数が多いサイトに最適です。
また、翻訳されたページはSEOにも効果があり、検索エンジンにインデックスされることでアクセス数の増加が期待できます。また、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)を活用することで、海外からのアクセスでも高速表示を維持でき、国際的なマーケティング活動にも最適です。翻訳方式によって仕様が異なりますので、詳細は製品ページをご確認またはお問い合わせください。
まとめ
「AI翻訳(NMT)」と「生成AI翻訳(LLM)」は、それぞれ異なる特徴を持っています。AI翻訳(NMT)は、専門用語の正確な対応や高い翻訳精度に優れており、迅速かつ効率的な翻訳が可能です。一方、生成AI翻訳(LLM)は文脈やニュアンスをより深く理解し、自然で人間らしい翻訳を提供します。
AI翻訳(NMT)や生成AI翻訳(LLM)、さらには従来の機械翻訳を用途に応じて使い分けたり、適切に組み合わせることで、業務効率を高めつつ翻訳の質を向上させる最適なソリューションが見つかります。自社に適したAI翻訳ツールを導入し、業務の効率化をぜひ実現してください。