機械翻訳のセキュリティリスクとは?情報漏洩を防ぐ対策と安全なツールの選び方

機械翻訳のセキュリティリスクのイメージ

業務効率化のために欠かせない機械翻訳ですが、「無料の翻訳サイトに機密情報を入力しても大丈夫なのか?」と不安を感じる方は多いのではないでしょうか。

結論から言うと、無料の翻訳ツールには情報漏洩のリスクが潜んでおり、企業での利用には適切な対策が必須です。

この記事では、機械翻訳の仕組みに潜む具体的なリスクと、無料版と有料版の決定的な違い、そして企業が今すぐできる安全対策について解説します。読み終える頃には、自社に最適な翻訳環境の整備に向けた具体的なアクションが明確になるはずです。

 

機械翻訳に潜むセキュリティリスクとは?

機械翻訳に潜むセキュリティリスクとは?
普段何気なく使っている機械翻訳サービスですが、その裏側ではデータがどのように扱われているのでしょうか。ここでは、企業が特に警戒すべきセキュリティリスクの構造について解説します。

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無料ツール利用によるデータ二次利用リスク

最も大きなリスクは、入力した翻訳データがサービス提供側の学習データとして「二次利用」されることです。多くの無料翻訳サービスでは、利用規約において「サービス向上のためにユーザーの入力データを使用する権利」を留保しています。

つまり、あなたが入力した契約書の内容や未公開の製品情報が、AIの翻訳精度を高めるためのサンプルとしてサーバーに保存され、再利用される可能性があるのです。

悪意がなくても、他社の翻訳結果として自社の機密情報の一部が表示されてしまうリスク(情報の流出)が構造的に存在します。

外部サーバーでの情報保存に伴う流出リスク

Webブラウザで使用する翻訳サービスの多くはクラウド型(SaaS)であり、入力したテキストは一度サービス事業者のサーバーに送信されて処理されます。

このプロセスにおいて、データがサーバー上にどの程度の期間保存されるかが重要なポイントになります。

項目 リスクの内容
一時保存 翻訳処理のために一時的に保存されるが、処理後に即削除される場合はリスクが低い。
永続保存 ログや学習用データとしてサーバーに残り続ける場合、サイバー攻撃や内部不正による流出リスクが高まる。

無料版の多くは後者の「永続保存」に近い運用が行われるケースが多く、一度送信してしまったデータを取り消すことは事実上不可能です。

翻訳内容が意図しない第三者に共有されるリスク

通信経路のセキュリティも無視できません。WebサイトがHTTPS(SSL/TLS)で暗号化されていない場合、Wi-Fi環境などを通じて入力データが第三者に傍受される可能性があります。

また、一部の無料翻訳サイトでは、翻訳結果を表示するURL自体に翻訳元の原文が含まれている仕様のものがあります。

このURLを誤ってSNSや掲示板などで共有してしまうと、URLを知っている誰もがその翻訳内容(=機密情報)を閲覧できる状態になってしまいます。

 

過去に発生した翻訳サービスの情報漏洩事例

リスクを具体的にイメージするために、過去に実際に起きたトラブルや、起こりうる事象について確認しておきましょう。これらは「対岸の火事」ではなく、どの企業でも起こりうる問題なのです。

無料翻訳サイトでのデータ公開トラブル

2015年2月、オンラインの無料翻訳サービス「I Love Translation」を利用していた公的機関や企業の内部文書が、ネット上で誰でも閲覧できる状態になっていた事例が報告されました。

翻訳結果のページが検索エンジンのクローラーにインデックス(登録)されてしまったことなどが原因とされています。

「Web上の無料サービスに入力する=インターネット上に情報を公開するのと同義である」という認識を持つ重要性が分かります。

参考:翻訳サイトに入力した内容が公開状態に、IPAがクラウドサービス利用について注意喚起 -INTERNET Watch Watch

サムスンの機密情報流出事例

2023年、韓国のサムスン電子で、エンジニアが社内の機密情報をChatGPTに入力して翻訳や要約を依頼していた事実が発覚しました。具体的には、半導体設備の測定データや社内会議の議事録、さらにはソースコードの最適化依頼などが含まれていたとのことです。

この事例では、入力されたデータがOpenAIのサーバーに送信され、AI学習に利用される可能性が指摘されました。サムスンは即座に社内ネットワークでのChatGPT利用を禁止する措置を取りましたが、一度送信された情報の完全な削除や影響範囲の特定は困難とされています。

多くの無料サービスは利用規約で「入力データをサービス改善のために使用する」と明記しており、企業の契約書や取引先とのメール内容が、知らないうちにAIの学習データとして蓄積されるリスクがあります。

実際に直接的な情報漏洩として表面化しなくても、他のユーザーの翻訳候補や予測変換に自社の固有名詞が表示される可能性は技術的に存在します。

参考:サムスン、スタッフによるChatGPT、Google Bard、その他の生成AI利用をリーク後禁止 – ブルームバーグ

生成AIへの不用意な入力によるリスク

近年急増しているのが、ChatGPTやDeepLなどのAIツールへの不用意な入力です。これらのツールも基本設定では、入力データがモデルのトレーニングに使用される場合があります。

ツール種別 学習利用の有無(デフォルト設定)
無料版DeepL あり(翻訳精度向上のために利用される)
無料版ChatGPT デフォルトであり(モデル改善のために利用される)
設定でオプトアウト可能
有料版/API なし(設定によりオプトアウト可能またはデフォルトで非利用)

社員が悪気なく「会議の議事録」や「顧客リスト」を入力してしまうことで、AIモデルの中に機密情報が取り込まれてしまうリスクが新たな課題となっています。

 

機械翻訳の無料版と有料版のセキュリティの違い

機械翻訳の無料版と有料版の違い​
「DeepL」や「Google翻訳」には無料版と有料版(Pro版やAPI版)がありますが、セキュリティの観点では全く別の製品と考えるべきです。ここではその違いを比較します。

データの保存期間と学習利用の有無

最大の違いはデータの取り扱いです。有料版の多くは、企業利用を前提として「データの機密性保持」を規約で保証しています。

比較項目 無料版 有料版(Pro/Business)
データ利用 翻訳精度向上のために利用される 利用されない(学習データから除外)
データ保存 サーバーに一定期間保存される 翻訳完了後に即時削除される
規約 個人向け利用規約 法人向け機密保持契約(NDA)対応

企業が業務で利用する場合、この「データを利用しない」という規約上の保証があるかどうかが、採用の可否を決める決定打となります。

通信の暗号化と認証機能の差異

通信経路の暗号化(SSL/TLS)は無料版でも標準的になりつつありますが、有料版ではより強固なセキュリティ機能が提供されます。

たとえば、特定のIPアドレスからのみアクセスを許可する「IP制限」や、社内のID管理システムと連携する「シングルサインオン(SSO)」などです。退職した社員がアカウントを使い続けたり、社外の不審なネットワークからアクセスされたりするリスクを防げます。

参考:シングルサインオン(SSO)の設定:OpenID Connect – DeepLヘルプセンター

ユーザー管理機能とログ監視の有無

有料版の管理者機能では、誰がいつ, どのくらいの量を翻訳したかを管理画面で確認できる場合があります。万が一情報漏洩の疑いが生じた際に、翻訳履歴(ログ)を追跡できるため、事後対応の観点から非常に重要です。

一方、無料版は個人利用が前提のため、社員が個人のGoogleアカウントなどでログインして利用していても、会社側はその実態を把握できません。いわゆる「シャドーIT」の状態となり、管理不能なリスクとなります。

 

企業が実施したい機械翻訳のセキュリティ対策

リスクと違いを理解した上で、企業は具体的にどのようなアクションを起こすべきでしょうか。明日から始められる対策を3つのステップで紹介します。

自社の機密レベルに応じて利用ルールを策定する

まずは社内の情報を格付けし、翻訳ツールに入力してよい情報の境界線を明確にします。全面禁止にするのではなく、情報の重要度に応じたルールを作ることが運用定着の鍵です。

情報区分 定義 翻訳ツールの利用ルール
機密情報 顧客名簿、未発表製品、契約書など 有料の安全なツールのみ可(または翻訳会社へ依頼)
社内情報 社内メール、業務連絡など 有料の安全なツールのみ可
公開情報 Web記事、プレスリリース済みの内容 無料ツール利用可(ただし推奨はしない)

「何を」「どのツールで」扱ってよいかをガイドラインとして文書化し、全社員に周知します。

有料の法人向けプランへの移行を検討する

ガイドラインを作っても、代替となる安全なツールがなければ社員は隠れて無料ツールを使い続けます。

業務効率を落とさないためにも、会社として公式に有料の翻訳ツール(DeepL ProやGoogle Cloud Translation APIを利用したツールなど)を導入・契約することを推奨します。

コストはかかりますが、情報漏洩によって失う信用や損害賠償のリスクと比較すれば、安価な保険と言えます。

また、クラウドにデータを送信しないスタンドアローンの翻訳ソフトも選択肢の一つです。例えば「PC-Transer V26」は、パソコン内で翻訳処理が完結するため、機密文書も安全に扱えます。インターネット接続が不要な環境でも利用可能で、セキュリティを最優先する企業におすすめです。

PC-Transer 翻訳スタジオ V26 for Windows – 【公式】株式会社クロスランゲージ

ブラウザ拡張機能の管理と制限

意外な盲点となるのが、Webブラウザの拡張機能(プラグイン)です。「Webページ全体を翻訳する」といった便利な拡張機能の中には、閲覧しているページの内容をすべて外部サーバーに送信してしまう悪質なものも存在します。

情報システム部門と連携し、許可された拡張機能以外はインストールできないようにPCの設定を制御する、あるいは定期的にインストール済みアプリを棚卸しするといった対策が有効です。

 

安全な機械翻訳ツールの選び方

安全な機械翻訳ツールの選び方
最後に、これから有料ツールを導入する場合の選定基準について解説します。「有名だから」という理由だけで選ばず、以下の客観的な基準でチェックしてみてください。

【関連記事】失敗しない翻訳ツールの選び方!押さえたい10項目&おすすめ製品 | CROSS LANGUAGE コラム

ISO27001などの国際規格認証を確認する

翻訳サービスを提供しているベンダーが、情報セキュリティの国際規格である「ISO27001(ISMS)」を取得しているか確認しましょう。組織として情報の機密性・完全性・可用性を守る体制ができていることの証明になります。

また、クラウドサービス固有のセキュリティ管理策である「ISO27017」を取得しているかどうかも、信頼性を判断する一つの目安となります。

サーバーの設置場所とデータ削除方針を見る

翻訳処理を行うサーバーがどこにあるかも重要です。GDPR(EU一般データ保護規則)などの厳しいプライバシー法規制に対応しているか、あるいは日本の企業であれば国内にサーバーがあるかを確認します。

さらに、「翻訳処理が完了したらデータは即座に削除されるか」「ログに原文は残らないか」といったデータ削除方針(リテンションポリシー)が明記されているサービスを選びましょう。

API連携によるセキュアな環境構築を選ぶ

より高いセキュリティを求める場合は、ブラウザ完結型のツールではなく、API(Application Programming Interface)を利用して自社の閉域網や専用アプリに翻訳機能を組み込む方法もあります。

API経由の利用であれば、Google翻訳なども「データを利用しない」という特約が適用されるケースが多く、自社のセキュリティポリシーに合わせた柔軟なシステム構築が可能になります。

 

まとめ

機械翻訳のセキュリティリスクについて解説しました。便利さの裏には「データの二次利用」や「情報漏洩」のリスクが常に潜んでいます。しかし、仕組みを正しく理解し、適切なツールを選べば、これらのリスクはコントロール可能です。

この記事の要点をまとめます。

  • 無料の翻訳ツールは、入力データがAIの学習に二次利用(再利用)されるリスクがある。
  • 有料版(法人プラン)はデータが即時削除され、学習に使われない契約になっているものが多い。
  • 対策の第一歩は、情報の機密レベルに応じた利用ガイドラインを策定し、安全なツールを会社として提供すること。

翻訳ツールは今やビジネスに不可欠なインフラです。「禁止」するのではなく、「安全な道を用意する」ことが、企業のセキュリティ担当者に求められる役割と言えるでしょう。
まずは自社で利用されているツールの実態調査から始めてみてはいかがでしょうか。

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